色彩をもたない僕の世界
僕は生まれつき 色の区別がつかない。
一般的には 色盲と呼ばれるものだ。
昨今では『色盲は差別用語だ!』みたいな意見が、僕達のような当事者の知らぬ間に言われ出し”色覚異常”なんて呼ばれたりする。
僕こと 佐崎秀(しゅう)は物心ついた頃から この体質なので、僕自身はあまり深く考えたことがなかった。
が、周囲は違った。
なんだか 気を遣われることの方が、申し訳ないし疲れる。
そんな僕だが、 親の影響で幼い頃から音楽を学んでいた。
中学・高校と吹奏楽部へ入部した。
僕はテナーサックスを担当
中学時代から今現在まで続く腐れ縁の水谷桜(さくら)とは、
しょっちゅう方向性などで衝突を繰り返すも、それでもなんだかんだ 気の許せる仲ではある。
桜はパーカーションを担当
18歳 高校卒業間近の2月
僕は所属する吹奏楽部のメンバー達と卒業旅行へ行った。
観光名所をワチャワチャと回っていると、後方から声をかけられた。
桜
『…秀?あんた 普段は無愛想に ムスッとしてるのに、なに幸せそうな顔してるのよ?…なんか腹立つわね〜』
秀
『…そうかな?
…なんだろう?この景色みたいなもんだろうな。
お前達には鮮やかな色彩が見えているんだろう?
…俺にはそれはわからないけど…なんだろうな?…
…そうか、これ、桜じゃん。
色彩とかはわからないけどさ、”綺麗”だなって。…ほら?お前みたいにさ』
声にだしていて気がついた。
僕は恥ずかしいことを言ったのではと?
ちらっと桜の方を見る
桜は大きな瞳がせわしなく上下左右に動きながら、口をパクパクとさせている。
すると今度は、キレ気味の口調で
桜
『…っ!このっ…、バーカ! バーカッ!そんな小っ恥ずかしいこと平気に言えるなんて、それでも日本男児か?!』
まくしたてるようにそう言いながら、桜は人混みへ消えていった。
不便はあっても、不自由ではない。
色が有る無しなんて本当に些細なこと…少なくとも僕にとってはそうだ。
綺麗も不幸も 幸せも、自分でしかわからない。
少なくとも僕にとって
この日常 生活 世界はとても とても綺麗で美しい。