灰色の国 (くるー)

創作小説をはじめ、その他徒然と書いています。

愚者と女帝と刑死者と 11

『こいつがさっき話した『元野球部』か?
どちらかと言えば手芸部って感じだな』
と3年生の男子が言った。 



すると女帝はこう答えた。
『そうです先輩。奴がその『偏屈な元野球部』です』



女帝 君はなんでいつもそうなんだ…



先輩と女帝が僕の方へと向き直り、こう言った。

『ようこそ 吹奏楽部へ』




この中学は、全生徒が部活に加入しなければならない。
退部したからといって、
そこは変わらない。


だから、野球部を退部しても
どこかの部活へは加入しなければならない。


僕は 一応入部先を探してはいたが、
どうも中途半端な自分が途中から加入することが嫌で、
入部先を決めかねていた。



正直、2人の申し出は驚きだ。

吹奏楽部というものは、
文化部の中でも、活動がハードなのは意外と知られている。

『中途半端な奴は、演奏の面でも、士気の面でも 全体に迷惑をかけるので追い出す』と
3つ年上で吹部 部長歴のある兄が

そう言っていたことを思い出す。



普通、
門外漢のような自分の入部は嫌がるものだと思っていた。




どうやら、3年の男子生徒は
引退した吹奏楽部の元部長で

女帝はどうやら、
次期部長として内定が出ているようだった。

ということは、この音楽教師は吹部の顧問か…




どうやらこの元部長は、
3つ年上の僕の兄と面識があるようだった。

僕と音楽教師を抜きに
4人は勝手に話を進める。




『やっぱり、先輩みたいにテューバをやってもらったら良いんじゃないか?体力はそれなりにあるだろうから』と元部長

『野球部ってことは、リズム感が最低限はあるんじゃない?打楽器よ!』と愚者

『人手が足りてない、トロンボーンは?』と女帝



本当にこの人たちは…当事者の意見は聞かないのか?




僕は話し合いを遮って『ちょっと待ってくれ、入部するとも言ってないし、そもそも僕は楽器は未経験です。
そんな中途半端な人間が、生半可な気持ちで入部しても良いんですか!?』


僕の訴えに、3人は意外な返答をしてきた。



『早かれ遅かれ、
最初はみんな未経験者だ。問題ない。
 それに、あの伝説の先輩の弟だろう?
なんとかなるさ』と元部長


愚者はといえば、
無言で、苦い顔をしながらも、僕の手をぎゅっと握ってきた。


これは愚者の癖の一つ
何か、必死に伝えたいけれど、それが言葉にできないときには、この仕草をする。
 


あの伝説の先輩…
兄よ 貴方はどんな事をしでかしていたんだ…


元部長はニヤリとしながらこうも続けた。

『それに、次期部長が部長を引き受ける条件の一つに
『お前の入部を歓迎すること』だからな。
のむしかないだろう』
そうゆうと女帝は、
腕組みをしたまま、窓の方をそっぽ向いてしまった。


女帝はプライドが高く、
それでいて天邪鬼だ。

恥ずかしい気持ちを隠そうとすると
不機嫌な素振りを見せる。

これは女帝の癖の一つだ。





終始無言だった顧問が口を開く。

『結局はお前の自由意志で選べ。入部の意思があるのなら後で入部届けを出しに来い』

それだけ言って顧問は去っていった。







僕は、変わりものだという自覚はある。

基本的に他人に興味は無いし、
考え方も 言動も
全てズレているのは承知している。

そんな自分は嫌いではなかったが

しかしいつの間にか
他者に理解されることを諦めていた。


でも振り返ってみると
昔から今でもずっと愚者と女帝は寄り添ってくれている。

そして今もなおだ。




 僕は吹奏楽部への入部を決めた。

その日のうちに入部届けを出して、
翌日から、部活動に参加した。

野球部はもちろん全員男子であったが
吹部は女子と男子の割合が8対2といったところだった。

楽器は…何故かホルンをふられた。

音の出し方 音階 譜面の読み方
覚えることはいっぱいだ。