灰色の国 (くるー)

創作小説をはじめ、その他徒然と書いています。

スカートの裾

5月の終わり、週末でにぎわう繁華街、
いつもみたいに仕事仲間で飲み終わって、てんでに解散
ある人は旦那さんに迎えに来てもらって、

またある人はべろんべろんになった仲間を介抱しながら連れて帰る。
私と彼女はいつもみたいに、降りる駅こそ3駅違えど、最寄り駅まで一緒に帰る。
彼女は珍しく酔っていた。
おぼつかない彼女を、私は心配しながらも一緒に歩く。
顔は真っ赤で、両手を水平に広げておどけながら歩く。
彼女はいまにも転んでしまいそうだ。
私は彼女の手をつかもうとするが、私もまた酔っているうえに、自分と彼女の荷物も持っているため手元が狂い捕まえられない。

 

 

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「おっとっと…」と彼女が転びかけ、私は彼女のスカートのすそをつかむ。
彼女は転ばず(というかほとんど自力で持ちなおし)「よっと」と垂直に立つ。

彼女は次に振り返り、私を見た。
私は彼女のスカートをつかんでいる。

 

私はなんだか恥ずかしくなった。

彼女は「ありがと」と軽く返して、再び千鳥足で歩き出す。

 

私はやっぱり"普通"ではないのかな?
私は彼女が好きだ。


それでも、ほかの人や話で聞く「好き」ではないようで…
さっきの仲間みたいに所帯を持っている人みたいな好きではなく、だからと言って、私は、すくなくとも思い描く先までは、彼女の「最も近く」であり続けたくて
でも彼女と肌を触れ合わせたいわけでもない。
ほかの人ともそれは同じで
けれども彼女と一緒に居たくて

ふつふつと酔った頭で考えながら私は彼女と駅まで歩く。
こう考えるのも、もう何十回目か?

 

不意に彼女が、私の手を取り歩き出す。
子ども同士が手を取るように

何事もないように、彼女は私の手を取り、
取った手を、ぶんぶんと振りながら歩いてく。

 

彼女は「手が冷たいねー」なんて言いながら、おどけて歩く。

私は彼女の手の熱を感じながら、同時に自分の手が冷たいことにも気づく。

 

こんなやり取りも、もう何回目か?

 

彼女はきっと、私の"こんな気持ち"に気づいている。
私が彼女へ寄せている好意と、その"形"もなんとなく。

それでも変わらずこうやって、彼女は私の手を取ってくれる。

私は自分のことがわからない。