此方の俺と、其方の神
俺の家は、江戸時代から代々続く神社、
『 白狐神社』
…ただ、祀っているのは『狐面』なのだ。
地域の人達からはお狐さまや、狐の守り神、狐武神さまなどなど、色々な呼び名で呼ばれている。
育ての親である爺さんからは、物心がついた頃から言われ続けている言い付け。
『狐武神様には”此方側”からは話しかけるな。…ただし”其方側”…狐武神様から、もし話しかけられることがあるようなら、それに応じなさい。』
俺、…篠崎 葵は、ごくごく普通の、現在高校2年生、
後々は、家を…この神社を継ぐために色々と準備をしてきた。
…秋も深まり11月に入る頃、この地域で奇怪な出来事が少しずつであるが、発生してきた。
『夜な夜な、甲高い赤子の泣き声が響いた後、翌朝 住民が一人、気が狂う』と…
正確には、昨日まで普通に話しができていた人が、翌日急に、意識がなくなり、以降、植物人間になってしまうと…
意識が戻らなくなった人を診た医師たちも口を揃えて、原因不明だと言うばかり。
日に日に不安な表情をした住人が増えていった中、俺も不安はあったものの、
それでも高校生活を送りながら、神社の仕事も従事してきた。
ふと、狐面を祀ってある祠へ向かうと、何か違和感を感じた…
葵
『…なんだ?なにに違和感を覚えたんだろう?』
???
『…ぃ…ぉい、…おい!そこのお前!』
葵
『…これは…やっぱり”あれ”だよな…?』
???
『…おい!、お前、この神社の者の直系だろう?儂じゃ!…ちと、耳を貸せ!』
葵
『…狐武神さま…ですか?…、本当に話しかけて来られるなんて…』
でも何故だろう?
不思議と驚きはしなかった。だが、嫌な予感がした…!
狐武神
『そうじゃ!…お前もこの土地に今起こっていることを知ってあるだろう?
あれは、儂ら側の存在の仕業じゃ!、儂が始末をしなきゃならんのだが…
…だがどうも、儂を纏うことのできる者は、以前は宗平…お前の爺さんがいたが、今現在はどうも、其方側にはお前さんしかおらんようだな…?
…よし、ゆくぞ!』
葵
『…ナニヲオッシャッテイルノデスカ?』
本当にわからない。どうゆうことだ?
狐武神
『…なんだ?宗平からは聞いておらんのか?
お前の血筋の者は、儂のような別の世の存在を、自身へ纏うことができるのじゃ。
...宗平の息子…お前の父は、儂の知らぬ間に、この地から蒸発しておるようだしな。
…儂は知っての通り、”狐の武神”…つまりは、魔を制す者だ。
…宗平は数回、自身を依り代に、儂を纏い、魔を制したぞ。』
葵
『…で?…つまり俺は、狐武神さま…貴方様の依り代になり、この奇怪な件を解決せよと?』
狐武神
『おお!そうじゃ!流石は宗平の孫、飲み込みが早い!…それでは…!』
そう言うと、祠の扉が勢いよく全開になり、風が俺を包むと思った刹那。
葵
『…狐面をつけて、纏を羽織っている以外、なにも変わらないのな。』
しかし脳内に、狐武神さまの声が響く。
狐武神
『そうじゃろう。あとはまあ…魔を制しに行くぞ!』
葵
『…え?…それってつまり…?』
狐武神
『…ん?なんじゃ?』
葵
『…って!…俺がその魔を倒しに行くってことですか?!聞いてない!聞いてないです!!』
狐武神
『なに、大丈夫。成るように成るじゃ!
…今風に言うと、正義のヒーロー?ってやつじゃ!…ゆくぞー!』
葵
『…はぁー…』
行くしかないか。
これも定め、これも運命。
生きていれば色々とある。
それでも、『生きて行く』と決めたなら、なにが起ころうと歩みは止めない。
…できることならなんでも…
…生きているのなら、なにがなんでもやってやる。
篠崎 葵 17歳
俺はこれから、夜を駆ける。
イラストは @caro_p1ctur9s 様より拝借