零時の魔女が嗤うとき
『 私達は、時として無力だ。
…何1つ、守ることも、決めることもできやしない。』
街を守る『番犬』の私達の日常は、いつもこんなものだ。
『ハンドラー』の役人たちからの指示のみで、私達は動くことができる。
逆を言えば、指示がなくては、目の前で 『悪行』が、行われていたとしても、身動きができない。
何が正義か?
何が良いことで、何が悪いことなのか?
本当にわからなくなる。
私達は、この街が好きで好きで、
だから、この街で暮らすみんなが幸せになれるよう、
『番犬』として、職務を執行してきた。
…しかしどうだ?
いつの間にか、私達は『なにを守るため』に、『番犬』の職務を果たしているのだろうか?
私達は、皆 日に日にフラストレーションを溜め込んでいった。
そんな日常の中、『番犬』の同僚から、一枚の古びた紙に、不思議な文様と、
一文が書いてあるものを渡された。
紙の一文にはこう書かれていた。
『汝、力を欲し、真に受け入れる覚悟のある者、ここに血を浸せ』
無言で、これを差し出された。
同僚は
『貴女に…お願いしたいの…』と、絞り出すように言う声が聞こえた。
私は、深く呼吸をし、ポケットからバタフライナイフを出し、指先から血をしたたせた。
そこから先、私の意識が消え、再び戻った時
…『ハンドラー』の役人や、『番犬』の仲間たち、
…そして街の住人までもが…誰一人として存在しなかった。
私は、無数の死体が転がる荒廃した街中に独り、血塗れ姿で立ちすくんでいた。
そして 街のメインストリートの壁には、赤のカラースプレーで、大きくこう書かれていた。
『 This town is a town of witch (この街は、魔女の街だ)』
『そうか、私は…』
私は嗤いが止まらなかった。
嗤って、嗤って、嗤って
時々 この街を訪れる旅人の命を刈り取り、また嗤う。
こうして、私の日常は続く。
永劫に。