灰色の国 (くるー)

創作小説をはじめ、その他徒然と書いています。

蒼い魔術師は悪夢を屠る 19



…物心ついた時には既に孤児院で生活をしていた『彼女』は、
幼い頃から様々なものに怯えていた。

その頃から、そして今現在も、『彼女』の背中には大きな火傷の痕がある。

そんな『彼女』には、心の支えというべきか、2人の親友がいた。
1人は『彼女』と同い年の女の子
もう1人はその女の子の3歳年上のお兄さん

『彼女』はその2人と、1人のシスターのみとは言葉を交わすが、
逆に、他のものとは一切、関わろうとしなかった。

当時の『彼女』は、その3人以外は全員、敵にしか見えなかったらしい。


…理由は、とても不明瞭だが、そうだったらしいし、
また、敵視されている側も、そんな彼女のことを敵とみなしており、
何より、背中に気味の悪い火傷の痕がある彼女を恐れていたらしかった。


とにかく『彼女』は、そんな孤児院からいち早く出て、独り立ちをしたかった。


『彼女』はその頃から、自身に魔術適性があることを薄々、自覚していたらしい。


『彼女』が12歳の時、敵対していた子どもに対し、無意識的に魔術で威嚇行動をしたらしかった。
『彼女』は無意識的だったとはいえ、
周囲の者はさらに彼女を遠ざけ、ますます、孤立した。



そして『彼女』が15歳の時、『彼女』の同い年で親友でもある、女の子の様子が、変になっていった。

…後に判明したことだったが、
この時点で、その女の子には『パラドクス』がとり憑きはじめていたようであった。


そして、それから2週間後、その女の子は完全に、パラドクス憑きとして覚醒し、
孤児院の子どもやシスター達を襲い始めた。

突発的であったため、軍に助けを求めても、到着までに30分はかかる。
その間に、子どもやシスター総勢40名ほどを喰らい尽くすには十分な時間だった。


…けれども結果として10名、助かった。


理由は、その『彼女』が、パラドクス憑きと化してしまった親友の女の子と対峙し、致命傷を与えたため、
到着した軍の者は、トドメを刺すのみだったそうだ。


『彼女』は、パラドクス憑きとなってしまったとはいえ、親友を自ら手にかけたこと、
そして、その親友の兄から…心の支えの1人から放たれた言葉が、今でも忘れられないという…


以降、彼女は孤児院を単身で飛び出した。

行く当ても無く、本当に孤独になってしまった。

…けれども、そんな『彼女』には、生きる為の明確な目的ができた。
それは『軍属となり、パラドクスを倒し、今度こそ、大切なモノを守る』こと。


そのために、違法ではあるが日雇いで金を稼ぎ、入学条件である17歳になるまで過ごしたという。


そして17歳の時、『彼女』はアカデミーの入学試験をトップで突破した。

資質、魔術適性、学力ともに申し分なかった。

…けれども実は、入学時の最終面接時に『彼女』は、入試不合格となりかけていた…

…その理由は
『それまでの経歴と違法な労働を行っていたため』と言う『口実』であったが、
『本音』は、審査官達が
『『彼女』は絶対に自身より上にいくものだ』と言う、いわゆる嫉妬心からであった。


ここまでが『アカデミー入学前の『彼女』の経歴』


ハンダー
『…』

ルーグ
『…しかし、わしがそんな事を許すことなかろうが。
…特別措置として、わしと『彼女』一対一の最終面接を行った。
…そして、わしから入学にあたって、条件を出した。
それは『クラスメイトと仲良くすること』…
これはチームワークや協調性という意味でも、重要であることを教え込み、在学中、あまりにも目に余る行為があった場合は、即退学にすると言った。
…その点に関しては問題なかったがの…
…『彼女』はアカデミーを去る際に『良い仲間を持てました。ありがとうございます。』と言って、卒業していったからの…

…逆に『彼女』の方からも、希望が出された。
それは『入学以前の名を捨て、新たな名が欲しい』とのことだった。


ハンダー
『…へっ?…つまり、ナタリーと言う名は…』

ルーグ
『…ああ、姓の『ノーツ』は、わしのツテで、その家の養女扱いに、そしてナタリーと言う名は、わしがつけた。』

ハンダー
『…』

ルーグ
『…どうだ?ここまで聴いて…?
ここまでで耐えられなかったら、これ以上最後まで受け止めることは不可能だ。』

ハンダー
『…大丈夫です…』

ルーグ
『…よろしい。では続けよう…
…君も知っていると思うが、彼女が今使用しているロッドは、最初の配属先の『憧れの先輩』の遺品だ。
…でもナタリー君は、憧れていただけではない。…恋い焦がれていたんだ…
その『彼』に…
…しかし、その先輩兵は戦死した…
…そこからの彼女の戦果は凄いが、一度、彼女がこう口にしたことがあった…』


ナタリー
『…誰かを愛して、失うのは、もう嫌なんです。…それだったら、その代わりに私は命を差し出す。…もう、この命も、この世にいることも、惜しくないもの…』

ハンダー
『…』

ルーグ
『…後日、そう口にしたことを本人に言うと、『冗談ですよ。忘れてください』とはぐらかされてしまったが、…あれこそ、本音じゃな。

…そして、最後に、孤児院時代の親友の兄から放たれた言葉…
…わしは呪いの類だと考えているが、その言葉が、今でもナタリー君を縛り付けている…
一字一句、ハッキリと覚えているらしい。
それを聞くか?』

ドックマン君は、一呼吸したのちに首を縦に振った


ルーグ
『…こう言われたらしい…
『…なんで、俺の妹が…っこんな目に会わなくちゃいけないんだ…っ!俺の妹をバケモノにした上に、お前にとって親友であるあいつを…手にかけることができるお前はっ…もっともっと、バケモノだっ…!』…とな…』




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