灰色の国 (くるー)

創作小説をはじめ、その他徒然と書いています。

蒼い魔術師は悪夢を屠る 8

 
ナタリー・H・ノーツ
学生時代、入学当時は17歳 
Aクラス 首席で卒業
入学時から卒業まで、座学・実技、敵う者なし。 
当時、ハンダーはBクラス
 
卒業後は、魔術師が特に人手不足であった
「第三師団 第二隊」に、互いに配属。
 
  
配属から1年後、第二隊の管轄地域で史上に残る事件が起きた。
 


後に「キャロルの悪夢」と呼ばれた事件であった。
  
 
パラドクス憑きが30体以上おり、
現在の、この隊だけでは対処できないと、
当時の隊長は応援を要請した上で、一時撤退命令を下した。
  
しかし、そこで私は、隊長の、
上官の命令に逆らった。
 

…その時のことは覚えている。
前衛で戦線にいた、「あこがれていた先輩兵」が戦死したと一報が入ったことで、
完全に、頭に血が上っていたのであった。
 
 
ナタリー
「命令違反を承知の上で進言します。
私がこの場を鎮圧します。…隊長は私のことをただの「命令違反兵」として報告ください。」
 
  
私は、先輩兵の遺品でもあるロッドを拝借して、単独で前線へと向かった。
 
 
…そこから先は、正直あまり覚えていない。
…いや、覚えていないというと正確ではない…
…覚えてはいるものの、現実感が皆無であったので、
まるで夢の中の出来事のように記憶に残っている。
 
先輩兵のロッドは、特殊仕様で、
使用者の思いや能力を具現化して形を変える。
 
その先輩兵もまた魔術師ではあったが、
近接戦闘の際には、
そのロッドを剣へ変形させ、戦闘していたのを覚えていた。
 
 
その時ロッドは、私が強く念じると、
身の丈ほどもある大きな一振りの「鎌」へと形を変えた。
 

 
その時の私は、感情のまま、その鎌で、
パラドクス憑きを
「恐ろしく冷たい笑みの表情」で、奴らを刈っていた…らしい。
 
 
 
…キャロルの街の鎮圧が完了したのとほぼ同時に、本部の特殊部隊が到着した。
  
本部の者は、予想外の状態にとても驚いていたらしかった。
そして、私はやっと現実感を取り戻した。
 
  
…その後私は、「命令違反兵」ではなく、「功労者」としての扱いを受けた。

その功績から本部直属の「第一師団」に異動となり、ハンダーとはここで別れた。
 
 
あこがれの先輩兵の葬儀の際に、先輩の近親者から、
「あなたになら」とそのロッドを託され、今現在も使用している。
 
 
その後、第一師団の参謀として作戦の指揮、立案。
元々得意でもあった戦略級魔術術式を担当した。
 
が時に、先ほどのように頭に血が上ると、
単身で前線へと突っ込み、暴れる。
狂戦士のように。
…そこからついた別名が「バーサク・キャスター」
 

25歳の時に、軍の最高決定機関「特務会議室」その「分室」に着任。
 
それと同時に、
当時、魔術師協会で空席となっていた
「蒼」の称号を得た。
 
  
翌年 特務会議室 分室長補佐に着任
軍の運営から、総合的な作戦指揮、時には前線へと繰り出し、戦闘も行なう。
 
 
 
 

 
 
ナタリー
「…」
 
 
ハンダー
「…だからお前、目が怖いって…まあ、女の、しかも魔術師が「狂戦士」と揶揄されても嬉しくはないよな。」 
 
ナタリー
「…ドックマンこそ、あの後から今まで、大変じゃなかったのですか?」
 
  
第三師団 第二隊は、現在存在しない。
 
「キャロルの悪夢」で、隊の3分の2が壊滅した上に、元々は「キャロルの街」を守護することが主な目的の隊であったため、
存在の意義もなくなってしまったのであった。

 
当時の第三師団長は、
残存した第二隊に補充要員を加えて、「遊撃隊」として活用する案があったようであるが、
「寄せ集めの隊」では遊撃隊として、機能できず、
「キャロルの悪夢」からちょうど1年後に、第三師団 第二隊は解散した。
 
  
ハンダー
「…いや、キャリア組のお前と違って、そんなこともなかったぜ。
解散した後は、第三師団内の隊を渡り歩いていたんだけどさ、ある日突然、「古巣」に、
しかも教員になるなんて思ってもいなかったよ。…そんでも今は、すっげー楽しいぜ。ウザいくらいの学生もいるけどな」
 
ナタリー
「…なら、良かったわ。…そうよね。あなたのそうゆうところが長所でもあり、魔術師としても特筆点になっているものね。」
 
 

「魔術師の質」というものは、性格に左右される部分もある。
 
ドックマンのこの楽観的な性格は、
イコールで「物事を深く考え込まない」ということになる。 

 
高度な術式を「編む」には、
己の精神に、自らが深く入り込む必要がある。
 
ドックマンは、その点がまるで苦手だ。
  
私とは真逆である。
 
しかし、
逆に私は無意識に、「物事を深くまで考えすぎる」節がある。
 
 
  
そうゆう意味で、
「直感的に、簡潔に術を編む」ことができるドックマンは凄いと私は言った。
 
それが、日中、学生に話した「略式魔術」の根本である。
 
 
ナタリー
「あなたは、教員…というか、「先生」に向いていると思うわよ。」
  
素直にそう言ったものの、ドックマンは
「またまたー」と流してしまった。
  

その後は他愛のない話をしていた。
 
初めてこの場所に来たときは7人だったとか
…そのうち2人は、もうすでに、この世にはいないこととか…
 

この場所で、花火の代わりに、炎系の術を使って、危うく、山火事を起こしかけたこと

その際に私が、
炎を消すために術を使って、
この山全域に大雨を降らせたこと

 
第二隊での下っ端時代は大変だったなや
 
あの時の
あの先輩と、別の隊に配属された同期生が結婚したこと

 
などなど、話しが止まることはなく、
気づくと微かに朝日が昇っていた。
 

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