灰色の国 (くるー)

創作小説をはじめ、その他徒然と書いています。

愚者と女帝と刑死者と 22

そのまま駄弁っているうちに
いつの間にか新年を迎えていた。



そしてそのまま神社へ、
合格祈願も兼ねたお参りに行った。




そして再び
刑死者こと僕の自宅へ帰った。






日が高くなってくると
ふと、愚者が居ないことに気づく。

女帝に尋ねると
『何かを家へ 取りに行った』との事






女帝は自分でそう言ってから…

 はっと、顔を上げ、僕の方を見る。







2人とも無言であるが
おそらく、考えている事は同じであろう…




『…悪い予感しかしない…!』




『いやいや、愚者だって、もう15歳の女の子だよ!そんな厄介な事…』と僕は
言いながらも
その不安は拭いきれない…



女帝は言った。
『甘いわね…!』





 女帝はこうも続けた。

『一緒に 吹部をやってて 分かっていると思うけど、愚者は、ムードメーカーであると同時に
トラブルメーカーなのよ。
花の15歳の女の子でも、愚者は 結局、
あの愚者なのよ!』






確かにそうだ。

吹部内では、ムードをつくると同時に
数々のトラブルを発生させた経歴がある。







愚者の具体的な罪状は…

譜面のコピーミスで、
余分に300部もすってしまった×5回
(最後には、彼女に コピー機使用禁止令が出された)

合奏中に、譜面台をドミノ倒しし、
合奏中断×4

部室の鍵の紛失×3

ティンパニーをぶち破る









部活以外では

理科の実験中、危険薬品をぶち撒ける

遅刻寸前で全力疾走中、窓ガラスに衝突 
ガラスにひびを入れる
etc








もちろん、愚者に悪意は一切ない。

ただ…だからこそ、厄介なのである…






ドタドタと廊下を走る音が聞こえてきた。



どうやら愚者が来たようだ

女帝と僕の間に、
無言の緊張感が漂う。


部屋の扉が開く
満面の笑みの愚者が、部屋へと
なだれこみながらこう言った。
『良い事 思いついた!』







愚者は言った。
『羽子板をしよう! もちろん罰ゲー付きの♡』
愚者の手には、羽子板一式と…習字セット…


女帝と僕は、キッパリと断った。






それでも
『ねーねー、やろうよー』としつこくせがむ。


かと思ったら、今度はしゅんとなって、ポツリポツリと
こんな事を言い出した。







愚者
『…女帝いつだか言ったよね?
『私達いつまでこうやって集まれるのかな』って、
それでもさ、その後も、なんだかんだで集まれてたじゃん。
それこそ、小学時代と変わらないくらいに…
でもさ、今度は違う… みんなバラバラな高校なうえに女帝なんて、県外の高校じゃん。本当にさ、逢える時間が…』


愚者はさらに続けた
『刑死者だってさ、つまりは、働きながら 勉強するってことでしょ?
それこそ逢える時間無いじゃん…今度こそさ…ホントに…逢えなく…』

そこまで言って、
愚者はメソメソと泣き始めてしまった。





そんな姿を見て、女帝が言った。
『…だから『今 思い出を』ってこと?』





その問いかけに
愚者はメソメソと泣きながらも、
コクリとうなづいた。





愚者の気持ちは分かる。

分かるというか、
僕も同じ気持ちはあったが
それを上手く表現できずにいた。






女帝もおそらくは同じであろう。
もっとも、女帝の場合は、
プライドが邪魔して、表には出さなかったのだろうけど…







何より 普段は
『明る過ぎて、騒がしい』と評される、
愚者の涙に、
僕も女帝も弱い。





半分渋々
そしてもう半分は、幸福感を感じながら、
羽子板に参加した。

もっとも、
後者の半分の気持ちは、
あえて、表に出さぬようにして。










…羽子板開始 30分ほどで
気持ちは180度ほど変わったのだが